2019年09月27日

丸紅、柿木社長のビジョン

丸紅、柿木社長が新しい商社の構築に挑む。既存の事業の枠にとらわれない新市場の開拓へ2000億円の投資資金を用意。

スタートアップ流の経営手法も持ち込む。プラットフォーマーの台頭など経営環境が激変するなか、どんなビジネスモデルに作り替えようしているのか。4月に社長に就いた柿木真澄氏(62)に聞いた。

 かきのき・ますみ 1980年東大法卒、丸紅入社。2013年に常務執行役員。丸紅米国会社社長などを経て、19年4月から現職。長く電力部門を歩み、同部門を商社業界トップに押し上げた。「失敗した経験のある人じゃないと信用できない」が持論。週末の楽しみは録画したテレビドラマの観賞。好きな言葉は高杉晋作の「おもしろきこともなき世を面白く」。面白いと思えない世の中でも面白く思えるかは本人の心構え次第と説く。62歳。

■新分野へ2千億円枠、リスクとり挑戦

――商社はかつて「冬の時代」や不要論を指摘されながらも壁を乗り越えてきました。今の経営環境をどうみますか。

「技術革新でBtoCのサービスでもB(企業)とC(消費者)の距離がすごく近くなった。商社だけでなく、いわゆる中抜きですよね。間に入るビジネスモデルを軽く飛び越えちゃう。対応策は簡単です。

供給側に回るか、需要に回るか、立ち位置を変えればいいんですが、実現は容易じゃない。資産や人を抱えていて、図体が大きいほど変身するのは難しい。技術革新のスピードについていけるかが問題です」

――危機感が強いと。

「はい。今言っているのはチャレンジとスピード感と現場です。チャレンジは変化そのものですが、ゆっくりやってはダメ。世の中の変化に遅れてしまう。

現場は商品とかお客さんの近いところ。そこにこそ需要がある。机に座るのではなく現場に行って、先のニーズを知るのが重要です」

――「敗者復活」や「朝令暮改」という言葉も使っていますね。

「チャレンジするときは思い切ってやるべきですが、大概うまくいかない。大事なのは失敗しても扉をしめずに『よく挑戦した、もう一度トライしてくれ』という土壌を作ること。そうしないと誰も挑戦しなくなる」

「いざ何か始めるとき全員で決めても違和感があるときがある。世の中はすごいスピードで動きますから、違和感があるときはすぐ方向転換しないといけない。恐れず、おかしいと思ったらどんどん変えてくださいというのが朝令暮改です」

――聞いていますと大企業というよりスタートアップ流の経営ですね。

「ええ。スタートアップがリスクを取って挑戦するのを大企業でもやらないと。そのための仕掛けも必要です。大会社の商社が毎期の予算、決算にとらわれすぎていたら、新しいことに挑戦などできない。新分野へ2000億円の投資枠を設定したのはそのためです。そこでは時間軸も変えますし、担当も専任にする。そうしないとどうせこれまでと同じでしょと思われちゃう。これまで各商社ともうまくいかなかったのは本気度が足りなかったんじゃないかなと」

――ある意味、退路を断って変革に挑むと。

「次世代事業開発本部も作りました。本部長、副本部長とも一度丸紅をやめて外部に出た『出戻り組』ですよ。ここで新しいことにトライして社内にみせていく。中長期で収益を上げていくので、社員の評価の仕方もふくめて人事制度全般を大きく変えようと思っています。失敗は失敗としてバツはつきますが、何度でもチャンスを与え、リカバリーできるとか」

――新しい事業とはどういうイメージですか。

「僕が言うと忖度(そんたく)が入るからあまり言わないが(笑)、今後はC(消費者)に近づかないと成功モデルにならない可能性がある。我々は中間層が爆発するアジアの中心にいる。中国や東南アジアで中間層のコンシューマーを狙った新しいビジネスはいろいろありますよね。娯楽や教育、医療関係もある」

「もう一つはスマートシティーなど社会基盤の整備です。従来は交通、不動産など商品軸に縛られてバラバラにやっていた。でも日本では鉄道会社が不動産開発と街づくりを一体でやっているわけですよね。そこまで商社で考えていけないか。複合的なビジネスモデルにしていく必要がある」

「もっと身近な商機もありますよ。例えば、米国で言えば牛の解体作業の自動化とか、空港の荷物搬送でアシストスーツを使うとか。人手不足や重労働の軽減に役立つ」

■課題のささやき聞き取る

――社会課題の解決につながる事業ですね。

「社会課題解決型のビジネスはいっぱいある。そんな課題のささやきを聞き取れるかどうか。人がこうあったらいいなという夢を一緒にかなえる。需要を探す『ディマンドプル』から『ドリームプル』にならないと。商社は社会の変化、お客さんの声に一番敏感なはずだったのに、そうなっていないんじゃないかっていう危機感がある」

――従来の事業モデルはどう見直しますか。

「自分たちで主体的にやる形に変えていきます。商社って中間にはいったり、マイナー出資で案件に参画したりするケースが多いですが、よくも悪くも自分でコントロールできない。リスクは減るかもしれないけど、やってる社員も面白くない。こういうのは減らそうよと。それより自分たちで運営できるプロジェクトを増やしていく。その方がはるかにワクワク感があるでしょ」

――商社では万年5位。丸紅の強みを生かしてどう上位を狙いますか。

「上位下位の違いは究極的には個人の気の持ちようだと思っています。その点、うちが劣っているのは間違いない」

「ただ個人的には順位はあまり意識しません。振り返ると、私は他の商社と自分のビジネスを比べたことは一度もない。目の前のお客さんに集中するだけです。お客さんの満足を追求した結果、優劣が出てくる。他社を意識して足の引っ張り合いをするより、お客さんが何を言い、どう応えたか。その結果がおのずと順位に表れるはずです」

――米中の貿易戦争が過熱するなど、保護主義の流れが顕著です。

「環境変化は絶好のチャンスです。貿易管理が煩雑になれば商社の出番も増える。ただ一番困るのは(保護主義で)物が全く動かなくなること。とはいえ、消費者に近いビジネスモデルは米中、日韓など外交に関係なく技術革新が起きてしまっている。それをベースにビジネスモデルを変えないとリスクを背負いこむ。10年先を考えて今から動かないと。軽やかにスピード感をもって変身できるか。この勝負です」

■取材を終えて)存在意義に強い危機感

顧客と直接つながり、膨大なデータを基に自ら新たなサービスや商品を生み出していく。そんなデジタル革命の動きが世界中の企業で広がっているからだろう。柿木氏の発言には商社の存在意義に対する強い危機感がにじむ。

もともと商社は情報をいち早くつかみ、顧客企業とともに物流や投資などで先手を打つのが真骨頂だ。それが揺らいでいるとすれば、最近までのビジネスモデルと無縁ではないだろう。市況次第で莫大な収益が上がる資源投資に依存し、リスク回避のためマイナー出資に甘んじる。ある程度安定はしても、現場での情報収集に必死に汗をかく姿から遠ざかりかねない。今回、自ら主体的に動き、挑戦する風土への回帰を掲げたのはそのために違いない。

だが、それは新たなリスクを抱えるもろ刃の剣でもある。ゆがみを生じかねない「商社○位」という目標は避けたが、社員は何を目指すのか。挑戦に失敗した際の評価やリカバーはどうするのか。社員のベクトルを合わせるきめ細かな対話が欠かせない。

 (引用: 日経産業新聞)
posted by ヒデキ at 11:33| Comment(0) | 丸紅 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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