2013年02月09日

商社の不思議 (11)

 “花形の通信衛星も今は昔 残ったのは1グループのみ”

 CS事業では、大手商社がしのぎを削った。既得権益者がいなかったため、商社勢が入り乱れて商圏を競い合ったのだ。

 三菱商事を中核とする宇宙通信と、伊藤忠、三井物産、米ヒューズの3社連合の日本通信衛星が89年に衛星を打ち上げて事業を開始、激しい顧客争奪戦を繰り広げた。

  当時、CS(通信衛星)は鉄道にたとえられた。 
「 何を載せるのか、誰が乗るのかはわからないが、巨大インフラになるのは間違いない。これに乗り遅れれば情報・通信産業から脱落する 」 と各商社は見ていた。

 CS市場は、1兆円市場になるともいわれ、日商岩井(現:双日)、丸紅連合に住友商事が加わったサテライト・ジャパンも94年に事業開始予定で三つ巴の戦いが見込まれていた。

 だが、いざCSビジネスが立ち上がると、市場は暗雲に見舞われる。バブル崩壊が直撃したのだ。企業のCS需要は伸びず、衛星の稼働率は低下し、有力顧客であった番組提供会社は軒並み大赤字の苦境に陥ってしまう。

 そのため、93年には早くも日本通信衛星とサテライトジャパンが合併することで、過当競争を回避するほど、市場は冷え込んでいた。

 一方の宇宙通信も90年に2号機の打ち上げ失敗、さらには1号機の故障という不運に見舞われ、目玉事業に暗い影を落とした。

 2000年には宇宙通信とともに三菱商事が注力していた衛星放送 「 ディレクTV 」 が、日本通信衛星グループの 「 スカイパーフェクTV 」 に利用者を移行させ、事業を打ち切った。

 CSデジタル放送は開始からわずか4年で1社に集約された格好だ。その後、宇宙通信もまた2008年に日本通信衛星に吸収されてしまった。

 それでも、2000年にJSATを上場したことで、伊藤忠、三井物産、住友商事、日商岩井 ( 当時はアイ・ティ・エックス ) は50億〜70億円の売却益を得ていたし、 「スカイパーフェクTV」 は順調に成長した。

 ただ、結局のところCSビジネスもまた、当初描いたようなバラ色のものではなかった。

 「 木は育ったが森にならず 」 影薄まる情報・通信事業

 大手商社が陣取り合戦を展開したのが、3種の神器の3つ目、CATV事業だ。郵政省は93年までにそれまでの、経営主体は地元資本、営業区域は限定といった、CATVに課していた規制 ( 指導 ) を大幅に緩和、CATV事業の門戸を開いた。

 これを受け、商社が入り乱れて、既存CATV局の買収と新局開設の苛烈な競争を繰り広げたのだ。

 このCATV事業で先行したのが住商だった。83年にCATVプロジェクトチームを発足させ、93年時点で19局に出資していた。さらに同年に米CATV大手のTCIと提携し、買収戦略を加速した。

 これを追ったのが伊藤忠だ。91年に東芝と共同で5億ドルずつを米タイム・ワーナー (TW) に出資。共同設立したCATV会社、タイタスコミュニケーションズで住商を追い上げるはずだった。

 だが、財務内容が悪化していた伊藤忠は97年、総額2,000億円に及ぶ特損処理を行うリストラに着手する。

 98年以降に虎の子だったTW株をすべて売却、前出のタイタスは2000年に住商傘下のCATV運営会社、ジュピターテレコムに事実上のみこまれた。

 結局のところ、情報・通信分野で収益の柱に成長した事業は、住商のCATVだけだったといえる。

 90年代後半から2000年代にかけ、情報・通信事業は株式譲渡や上場による “収穫期” を迎えたことも確かにあった。しかし、CATVに続く目玉事業はなく、尻すぼみ感はぬぐえない。

 将来を担う花形事業としての熱気も今は昔。情報産業部門のセグメントで決算を公開する商社は減る一方だ。

 伊藤忠の通信事業部長やマルチメディア事業部長を務めた松本徹三・ソフトバンクモバイル特別顧問 (クアルコムジャパン社長を経て、ソフトバンクモバイル副社長などを歴任) は、 「 情報・通信産業では多くの木を植えたし、大木も育ったが、森にまでならなかった 」 と残念がる。

 ただ、新規参入と撤退を繰り返してきた商社にとって、事業の目論見が外れることはありふれた日常に過ぎない。それは情報・通信以外のビジネスにも当てはまる。

 古くは安宅産業事件にはじまり、丸紅首脳がロッキード事件、財テクに走り巨額損失を出した特金・ファントラブームなど、商社の歴史はまさに失敗の歴史なのだ。

 ( つづく ) 


posted by ヒデキ at 21:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 商社の不思議 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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